アカデミー紹介

宮城県の公立学校等で広がっている「探究の対話(p4c)」。それは,2013年7月ハワイの教員たちが来日した際に,仙台市立若林小学校で初めて紹介されたことから始まります。東日本大震災後,被災地の教育復興に関わる中で,子どもたちの心のケアを重要な課題と認識していた宮城教育大学では,「子どもの哲学(p4c)」が子どもたちの心を癒し開放する効果があると確信しました。
2014年4月,公益財団法人上廣倫理財団の支援を受け,本学の教育復興支援センター内に上廣倫理・哲学教育研究室を設置しました。そして,2017年4月には,活動の更なる充実と発展を図る目的で「上廣倫理教育アカデミー」として改組・設立し,現在に至っています。
「宮城教育大学 上廣倫理教育アカデミー」では,姉妹組織である「ハワイ大学アカデミー」が長年にわたって研究・実践を重ねてきたハワイ型の「p4c(philosophy for children)」を基に,日本の公教育が育んできた教育文化に根差した,学校教育に取り入れやすい「探究の対話(p4c)」として,その普及活動に取り組んでいます。
将来教壇に立つ学生の育成や現職教員への啓発にも力を入れ,「探究の対話(p4c)」が教育の基盤と位置付けられるよう実践の充実を図っています。宮城県を中心として活動を続けていますが,オンライン等の普及により,今後は更に実践から得た知見や研究の成果を広く全国に発信し,日本の教育発展に寄与していきたいと考えております。
「探究の対話(p4c)」という教育
「探究の対話(p4c)」は,探究の源である「問い」を大切にしています。「不思議だな」「知りたいな」という子どもの「問い」について円座になった参加者が毛糸のコミュニティボールを使って対話を進め,内容を掘り下げながら考えを深めていきます。日々の暮らしや学校での学びの中から生まれた「答えが一つではない問い」について,じっくりゆっくり考える時間は,子どもたちの探究心を育んでいきます。対話をとおして考えを深める「探究の対話(p4c)」という教育は,一人一人が互いを尊重して多様な考えを共有することのできる心や集団の絆も育み,安心感(知的セーフティ)のあるコミュニティづくりの実践につながっていきます。
注目される「探究の対話(p4c)」
国立政策研究所・西野総括研究官の言葉
日本でも,現在「思考力」が非常に重視されていますが,「思考力」を育成することが心のケアや心の癒しにつながるという発想はあまりありません。「思考力」は頭の問題と捉えられ,認知的なスキルであるという意識が強いからです。そんな中,「思考力」を社会性や自分の生き方とつなげて捉えている宮城の皆様の実践はすばらしいと思います。「問い」が大事であるということも,学習指導要領でクローズアップされています。とりわけ,誰も見つけてはくれない人生についての大事な「問い」を自ら見つけていく力を育てていってほしいと思います。そして,「探究の対話(p4c)」には,そのための大きな可能性があると確信しています。
学校教育の中では,「楽しいだけでいいのか」という問題が必ずと言っていいほど出てきますが,「楽しい」ってとても大事なことです。決してそれを奪わないでください。子どもたちが「あ,今日はいっぱい話せて楽しかったな」と感じる経験をすることが大事です。考えることを楽しいと思ってほしいのです。楽しくて手応えのある授業を「探究の対話(p4c)」で,宮城から発信していってほしいと願っています。
アカデミーの活動について

探究の対話(p4c)を教育現場に普及しています
宮城県内を中心に,公立幼稚園,小・中・高等学校に出向いて実践研究を行っています。
実践に取り組む先生方,学生を支援しています
実践に取り組む先生方や興味を持たれた先生方,学生を対象に,研修会を行っています。
大学生・高校生を対象とした研修や支援を行っています
「探究の対話(p4c)」に関心のある大学生や高校生を対象にしたファシリテーター養成研修や,p4c学生自主ゼミ=「Pすく~る」の支援を行っています。
「探究の対話(p4c)」のエビデンスを得るために,実践に基づいた研究を行っています。
学内の研究者とプロジェクトを組み,協働して研究を深めています。
1年間の取組
オンライン研究会
アカデミーの活動を広く知っていただくために,年に1回(12月初旬頃)開催しています。
新型コロナウィルス感染拡大の影響により,オンライン研究会に切り替えて2回目となった令和3年度は,幼児教育部会,小学校部会,中学校部会,特設部会(不登校対策)の4分科会と各分野の専門家を招いた全体会(パネルディスカッション)を行いました。宮城県内はもとより,県外からも参加者があり,「探究の対話(p4c)」に対する関心が全国的に高まっています。
ハワイとの交流
新型コロナウィルス感染拡大の影響により,これまで行ってきた日米教員交流事業は一旦中止しています。感染が収束するまで,p4cのよさについての理解を深める機会として,教員,学生同士が意見の交流を行うことのできる「日米交流」をオンラインで行っています。
さまざまな研修
<出前授業・職員研修>
県内の幼稚園,小・中学校,高等学校からの要請を受けて,教育現場に出向いています。
実際に学級に入って子どもたちとコミュニティボールづくりやp4cの体験,p4cを活用した道徳の授業実践,学校課題に応じた継続支援などを実施しています。
また,職員研修として,p4cについての講話と演習を行っています。
<定例研修会>
オンラインを活用し,定期的に実施している教員,学生のための研修会です。
テーマに沿って実践を報告し合ったり,研究者の話を聞いたりしながら,それぞれの経験に応じてブラッシュアップできる研修会です。
<コアメンバー研修会>
日米教員交流事業に派遣された教員を対象に開催する研修会です。テーマに沿って実践例や授業プランを持ち寄り,より実際的な力を付けるための研修を重ねています。
<ファシリテーター養成研修>
「探究の対話(p4c)」に関心のある大学生や高校生対象の研修です。ファシリテーターとして,自分たちでp4cを進めることのできる力を養います。
<p4cトーク>
オンラインを活用し,ビギナー向けに「p4cトーク」を行っています。p4cに関する疑問や悩みを気軽に語り合い,明日の実践につなげる研修です。
p4cキャンプ
国立花山青少年自然の家を会場に,「体験活動とp4cの融合」をプログラムに取り入れたp4cキャンプ(夏・秋)を行っています。
キャンプでは,児童生徒のコミュニケーション力や思考力・表現力などの育成を目指します。本学の学生や高校生のためのファシリテーター養成研修や学校課題解決に向けた体験活動も実施しています。